雑記帳

オタク医学生が思ったことを書くブログ

2022年 楽曲10選

こんにちは。

いつの間にか今年も残すところ1週間を切り、年末恒例の楽曲10選の時期になりました。今年も例によって

  • 2022年に正式リリースされた楽曲
  • 1アーティスト(名義)につき1曲

というレギュレーションですが、最近は配信のみのリリースも少なくないので「正式リリース」は配信も含むこととしています。昨年の10選記事はこちら↓

take-md.hatenablog.com

 

※リリース順です

 

 

空合ぼくらは追った/AiRBLUE

作詞・作曲:渡辺翔 編曲:白戸佑輔

「CUE!」に関しては今年はいろいろとありすぎたのですが、その話はさておきAiRBLUEからはこちらを選出しました。初披露は昨年だったこともあってあまり「今年の曲」というイメージはなかったのですが、ここで紹介せずしていつするかと思ったので選びました。この曲は昨年の「CUE! Reading Live Vol.5」のテーマソングという位置付けであったので、当時と今の状況の違いを踏まえると聴こえ方も変わってくるのですが、「今」という瞬間を大切にして未来へ踏み出していくという歌詞はCUE!という作品に共通するテーマだなと思います。Dメロの

二度と来れない大切な時代を

青のせいにして力いっぱい刻みつけて歩んでいこう

というフレーズは特にその「今」を大切にするという意志を感じるのですが、ここに関しては初披露当時の状況を踏まえると

という解釈もできていたなと思い返しています。ちなみにアニメOPED主題歌も候補としては考えていたのですが、CUE!4thも終わって区切りがついたこのタイミングで選ぶのはなんか違う気がしたので外しました。

君だけのオリオン/サンドリオン

作詞・作曲・編曲:ヒゲドライバー

1月にリリースされたサンドリオン1stアルバム「märch」は、僕が聴いた中では2022年にリリースされたアルバムの中で最高のものだと思っています。僕はこのサブスク全盛時代でも(プレイリストを組むのを面倒くさがっているという面もありますが)アルバム単位で音楽を聴くタイプなので、曲単体よりもアルバムの完成度によってそのアーティストにハマるかどうかが左右されています。実際僕はこの「märch」をきっかけにサンドリオンの曲をよく聴くようになったのですが、その中でも特に良かったなと思うのがこの曲で、

飛ばさないで 消さないで

最後まで聴いてほしいんだ

ただ4分間だけの奇跡

という歌い出しの掴みの強さはもちろん、ユニット名のモチーフであるオリオン座を取り入れたストレートな歌詞がすごく刺さりました。ヒゲドライバー氏は何度も同じ言葉を重ねる表現を多用している(ex. 「ウラオモテ・フォーチュン」「回レ!雪月花」「One More Step!」など)印象がありますが、この曲のサビの

私の、声だ 声だ 声だ 声だ

君のために歌う、歌だ

という表現も、前述のストレートな歌詞との相性が良くて、聴き手にまっすぐ届けるという強い意志を感じていいなと思います。また、

数字だけ比べて 納得してる

そんな自分も 嫌いだったよ

数字だけの1,000,000回より

君の胸に残るそのたった1回が

どんなに価値があるだろう?

など、数字について言及した歌詞がありますが、先日のライブで発表されたメジャーデビューの直前に披露されたことで「メジャーデビューしても今目の前にいるファンを大切にしていく」という決意表明のように思えました。実際今までのサンドリオンはインディーズならではのフットワークの軽さがあった面もあるように思うので、メジャーデビューしても良いところは変わらずにいて欲しいなと新参ながら思っています。

 

はじまりのセツナ/蠟梅学園中等部1年3組

作詞・作曲・編曲:杉山勝彦

youtu.be

「明日ちゃんのセーラー服」は1月から放送開始でしたが、2022年で、いや今後数年アニメOP曲としてこれを超える楽曲は生まれないんじゃないかと思うほどの衝撃を受けました。なんかもう

時間が止まればいいのになって思うよ

まだ何も知らない同士なのに

どうしてなの もう君のことが好き

はじまりのセツナ

っていう歌い出しからすごいですよね。初めて同年代の子供がいる環境に置かれて、時間が止まればいいと思うくらいに明日ちゃんにとっての青春がキラキラしてワクワクに満ち溢れているということが、歌詞をはじめとして楽曲全体で表現されています。そしてこの歌詞は明日ちゃんからクラスメート達に向けての想いであると同時に、特に2番以降はクラスメート達から明日ちゃんに向けられる感情も表しているような気がします。ちなみにこの曲は「明日ちゃんが憧れているアイドル『福元幹』の曲を1年3組の生徒で歌っている」という設定もあるのですが、上記の通り歌詞が明日ちゃんとクラスメートに合いすぎているので今回はこちらの方を選んでいます。また、杉山勝彦さんはアイドル曲を多く手掛けられているだけあって大人数のボーカルで映える曲作りがすごく上手い印象で、またこの透明感のある曲調が「明日ちゃんのセーラー服」という作品の世界観にこの上なく合っているなと思います。

 

ネムイケド/麻倉もも

作詞・作曲・編曲:松坂康司

イントロの小気味いいギターとあくびで落ちました。この異常に気持ちのいいギター、なんか聞き覚えあるな…と思っていたら鬼頭明里さんの「トウメイナユメ」などを手掛けれている藤井健太郎さんでした。納得。この軽快なサウンドと麻倉さんの柔らかいボーカルで、「眠いけど楽しみなことがいっぱいでウキウキしている休日」という雰囲気がすごく伝わってきます。ところどころにウィスパーで挟まれる合いの手も印象的ですね。それにしても、以前の「シュークリーム」では

本当は行きたいカフェも

話題のテーマパークも

我慢を重ねて 今日も部屋でゲーム

ねぇ何で不機嫌なの?

眠いのに起こされて

まだ怒ってるの?

と歌っていたのに対し、今回は

映画もランチも欠伸も妥協しない

だってキミがいるから

夜更かしも早起きも笑顔も大事

だってキミがいるから

となっていて、いい彼氏に出会ったな…となっています("キミ"が彼氏かどうかは知りませんが)。落ちサビ手前なんて「欲張りは素直に」とまで言ってますしね。

↑「シュークリーム」についての好きな記事です。

 

さくら草の咲く頃に/tipToe.

作詞:本間翔太 作曲・編曲:瀬名航

youtu.be

tipToe.はDIALOGUE+の「夏の花火と君と青」や「花咲く僕らのアンサーを」などを手掛けた瀬名航さんが多く楽曲提供されていることをきっかけに昨年あたりから知っていたのですが、今年6月のDIALOGUE+主催の「タイバン」をきっかけによく聴くようになりました。その「タイバン」直後に発表されたこの楽曲は等身大感が強く、自分たち自身のことを歌っている印象で特に好きな楽曲です。僕自身はtipToe.のことはあまりよく知らないのですが、詞を書いているのがプロデューサー自身ということもあって、歌詞に込められた意図がなんとなく伝わってくる気がします。DIALOGUE+の曲を聴いていても思いますが、プロデューサーというアーティストのことを一番近くで見てきた人が書く歌詞ってすごくリアルで好きなんですよね。それにしても、昨年選んだ「花咲く僕らのアンサーを」といい、先に挙げた「君だけのオリオン」といい、この手のユニットが「今」を歌った曲が好きだなということに気づきつつあります。

 

八月のスーベニア/水瀬いのり

作詞・作曲・編曲:藤永龍太郎(Elements Garden)

女性声優が歌うストーリー性の強い曲がめちゃくちゃ癖(へき)です。シンプルなバンドサウンドがモノローグ的な歌詞と歌い方を引き立てて、夏の情景がありありと伝わってきます。この曲の歌詞についてどう解釈するかについては諸説あると思いますが、個人的には冒頭の「今年"は"花火が上がるらしい」という表現に2022年らしさを感じています。今年の夏はようやく諸々の制限が落ち着いてきて3年ぶりの花火大会となった場所も多かったようで、そういう時勢と重なってすごく沁みる歌詞です。そう考えると「あの夏が過ぎ去って今はもうどれくらいだろう」というのはコロナ禍を絡めて会えない期間が長くなったことを表しているのかなと思っています。この曲における「君」の個人的なイメージとしてはお盆の帰省の時にだけ田舎で会う連絡先も知らない同年代の女の子という感じで、数年ぶりに「僕」が帰省してもその子はいなくて…という状況なのかなと想像しています。たった数年で「きっと君は綺麗になっただろう」「ずっと僕は大人になったよ」というには短すぎる気もしますが、この数年の間に小学生が中学生に、あるいは中学生が高校生になったというような年代ならしっくりくる気がします。自分にそういう経験はないのですが、この曲を聴いていると存在しない青春の記憶が湧き上がってくるような感覚になります。

 

とっておきの便箋/上田麗奈

作詞・作曲:RIRIKO 編曲:Saku

youtu.be

僕は特段上田麗奈さんのファンという訳ではないのですが、気づけば3年連続で上田麗奈さんの曲を選んでいます。僕は常々歌うことが本業でない声優が歌手活動を行う際に最も重要なのは「声優ならではの表現」ができているかどうかだと思っているのですが、上田麗奈さんはそれが非常に上手い印象です。上田さんはそもそも演技力に定評があり、また歌唱技術自体も声優としてはかなり高い部類だと思うのですが、歌いながら声色と息遣いで感情を表現することに関しては右に出る人がいない気がします。今回のミニアルバムもそんな上田さんの表現力を存分に活かした楽曲たちが揃っているのですが、先行配信で聴いた時からずっと耳に残っていたこの曲を選びました。手紙というテーマで、語りかけるような歌詞と歌声が心地よくて何度聴いても幸福感があります。そして歌詞で個人的に好きな点は、とにかく肯定的であることかなと思います。そもそもこの「Atrium」というミニアルバムは「肯定」をテーマにしていたそうなのですが、この曲は

ふと考えるんだ 選ばなかった未来もあったこと

それでもじゃあ もう一度戻れるなら?

同じ方を選ぶよ

どうか大切な人よ あなたもあなたでいてね

など、特にその傾向が強い気がします。2016年のRefRainから続く四季シリーズは本作で最後となりますが、その集大成として相応しい楽曲に仕上がっていると思います。

 

続く話/せるふとぷりん(cv.稲垣 好/市ノ瀬加那)

作詞・作曲・編曲:佐高陵平

youtu.be

「Do It Yourself!! -どぅー・いっと・ゆあせるふ-」、本当に素晴らしいアニメでした。ゆるい雰囲気の中での本格的なDIY描写、DIYを通じて広がる世界、深まる関係…どれもが美しく描かれていて、2022年を代表するアニメの一つと言っていい作品でした。そんなこの作品を彩るOP曲もED曲も素晴らしい楽曲だったのですが、今回はED曲の「続く話」を選びました。OPの「どきどきアイデアをよろしく!」はDIYを通じて広がる世界を描いた楽曲という印象だったのに対し、こちらはせるふとぷりんの関係性を描いた楽曲でした。せるふとぷりんの関係性についてはここでは語りきれないので割愛しますが、二人がお互いに対して抱いている想いが掛け合いで、さらにDIYと絡めて

ふたり 重ね組み立てて

ふたり 結んで繋いだ

さっきまでのささくれた想いが

淡く溶けて消えてく

といった表現を使って表されていたりといった歌詞はもちろん、しっとりとした曲調や語りかけるような歌い方など、曲全体で二人の関係性を表現しています。特に序盤ではかなりツンケンしていたぷりんの内面がEDで描かれることによって、今後の展開への安心感のようなものも生まれていたような気もします。

 

Rainbow FlowerS/オルタンシア

作詞・作曲・編曲:ヒゲドライバー

これは完全に個人的な思い入れで選びました。先日年内での廃業を発表された嶺内ともみさんは、僕が事務所宛てに手紙とプレゼントを贈るほどに好きな声優さんでした。そんな嶺内さんの最後のステージとなった「Re:ステージ! PRISM☆LIVE!! 4th STAGE ~Reboot~」夜の部でサプライズ発表されたこの曲は、本当に「オルタンシア」が詰まっていて、それまで耐えていた涙腺が決壊しました。僕は常々、別れを悲しい思い出にしたくないという気持ちでいるので、このライブも最後まで楽しむことを心がけていたのですが、笑顔でパフォーマンスする二人とモニターに映し出された歌詞を見ていたら十数年ぶりの勢いで泣いてしまいました。嶺内さんのオルタンシア最初の曲である「Re:Rays」もそうですが、過去から繋いできたものを繋いでいく歌詞がものすごく沁みます。ヒゲドライバーさんには足を向けて寝られません。

 

星座になれたら/結束バンド

作詞:樋口愛 作曲:内藤英雅 編曲:三井律郎

youtu.be

「ぼっち・ざ・ろっく!」は、アニメという媒体でできることを全て詰め込んだような作品でした。作画クオリティに定評のあるCloverWorksらしい丁寧な画作りをはじめ、ほぼ毎話どこかにある実写パートなど、とにかく作り手が楽しんでアニメを作っているんだなというのが伝わってきた印象です。その中でもライブパートは、モーションキャプチャを利用したリアルな作画をはじめ、CD/配信音源とは別に録り直した劇中歌など、作り手のこだわりが強く出ていた印象があり、それが作品の完成度と視聴者側の没入感を高めていた印象があります。「ぼっち・ざ・ろっく!」の楽曲は14曲と1クールアニメとしては破格の待遇であり、どれも高いクオリティで迷いましたが、最終回の劇中歌であるこの曲を選びました。曲そのものとしてイントロから好みの音であり、また歌詞も「結束バンドと出会って半年が経った後藤ひとりが書いて喜多郁代が歌う詞」としてこれ以上なくぴったりとハマるものに仕上がっていて、これだけでも結束バンドの14曲の中でトップに躍り出るほどでしたが、劇中での描写でさらにそれが確実になりました。1弦は切れ、2弦はペグが壊れてギターソロに入れない後藤ひとりをバンドメンバーがアドリブで支え、そして土壇場のカップ酒スライドで切り抜けるというドラマがあったことで、この歌詞にもさらに説得力があったように思います。これは8話でひとりがギターのアドリブでバンドを支えたのと対照になっていて、バンドとして一緒にやってきたからこそピンチで支え合うことができたという描写をこの1曲の中に盛り込んでいるのが本当に素晴らしいですし、それが曲が止まることなく行われたことで、ライブのリアリティが高まっていたように思います。

 

 

今年は例年以上に聴いた曲が偏っていたこともあって10アーティスト10曲という縛りにはかなり頭を悩ませましたが、それ以上に世界にはいい曲がたくさんあることは嬉しいことです。来年も素晴らしい楽曲にたくさん出会えることを楽しみにしています。

 

最後にここで紹介した曲のプレイリストを置いておきます。それでは。

open.spotify.com

 

また明日。

こんにちは。ブログではお久しぶりです。

 

先日CUE! 4th Party「Forever Friends」に無事参加することができたので、感想を書いていきたいと思います。

 

この記事を読んでいる方はご存知だと思いますが、今回のライブは「CUE!」という作品にとって事実上最後となるライブイベントでした。その中でも特筆すべきことは、ライブ中に「最後」ということを一切言及しなかったことかなと思います。そもそもCUE!のライブは基本的にMCがなく、言及するタイミングがなかったといえばそうなのですが、MCの代わりに存在する朗読パートでもあくまで「日常」をテーマにしていて、物語はまだまだ続いていくということを表現していたのが本当に良かったです。しかも今回は原作アプリ〜ドラマCD、そしてアニメで描かれたAiRBLUE1年目の物語を踏まえて、明確に「その後」の物語として描かれていました。これまでのライブはアプリやアニメのストーリー本編の幕間的な位置付けだったように思いますが、今回は明らかに時系列が本編より後だったんですよね。そして、その中でもこれまで紡いできた物語を振り返りつつ、今(時系列的には本編より後ですが)、そして未来の話をしていたのが印象的です。僕の中でCUE!という作品を好きな理由の一つが、「時間の経過を大切にしていること」なんですよね。夢を追っていく上では未来の話をしがちですが、そのためには今をしっかりと見つめなくてはいけなくて、そしてその今を作っているのは過去であってという構造があると思うのですが、CUE!ではその全てを大切にしていたような印象がありました。こうして過去と今を丁寧に扱っているからこそ、AiRBLUEの物語は未来に向かってまだまだ続いていくということを自然に感じられたように思います。これはどこかで書いたような気がしますが、新人声優の成長を描いているこのCUE!という作品において、彼女たちが声優であり続ける限り「完結」というものはないと思っていて、じゃあどこで区切りをつけるのかと言えば「声優のタマゴ」が「声優」になるタイミングなのかなと今回改めて思いました。同じスタートラインに立って声優への道を歩み始めた16人もいつかはその道が分かれていくのが運命で、それでも共に過ごした時間はかけがえのないもので、それを同じ立場で振り返ることができるのが「声優のタマゴ」が「声優」になったアニメの24話であり、今回のライブであったのかなと解釈しています。もちろんまだまだAiRBLUEの物語を見たかった気持ちはありますが、これ以上先の物語を描けばきっと16人がそれぞれバラバラの道を歩んでいくことになってしまうような気がするので、ここで一区切りとなってある意味良かったような気がします。今回のブログのタイトルにもしましたが、「また明日。」で締めるのも良かったですよね。その「明日」は一つではなくて、それを受け取った我々の中にそれぞれ存在していて、終わりだけど終わりじゃない、そんな一つのコンテンツの区切りとしてこの上なく美しい締めだったように思います。現実世界での展開はここで一旦終わりでも、CUE!の世界はずっと続いていて、キャラクター達も日々成長していて…ということを本気で思わせてくれました。だから個人的にはこの3年半は「CUE!の世界と現実世界がたまたま交わっていた」というような状態だと思っていて、その間にCUE!に出逢えて本当に良かったなと心から思っています。

 

そしてここで現実世界の話をすると、CUE!という作品は「新人声優の成長」を描いた物語で、スタートから3年半、オーディションの頃からだと4年ほど経つようですが、キャストもこの間に「声優のタマゴ」から「声優」になることができていたような気がします。パンフレットのインタビューでもありましたが、キャスト16人の半分以上はCUE!がデビュー作で、そうでないキャストにとってもCUE!を通して初めて経験したことが多かったという状況で、最終的にここまでのものを作り上げてきたと思うと、この作品の使命は果たせたと言ってもいいような気がします。最初は1曲だけで大変だった、とキャストの皆さんは口を揃えて仰っていましたが、今回のほぼノンストップのライブをあの完成度でこなせていたことを考えるとものすごい成長ですよね。ステージに立って歌って踊ること、もっと言えば顔出しさえも「声優の仕事」なのだろうかという意見はずっとありますし、CUE!という作品においても一つの大きなテーマでしたが、今回のライブ(というかCUE!のライブ全てですが)はそれに対する一つのアンサーだったような気がします。もちろん声優の仕事は声を当てることというのは大前提ですが、声以外にも体全体を使って演じ切ることで生まれた解釈もあったでしょうし、それによってキャラクターの解像度というか実在性に繋がっていたと思います。1stの頃から既にキャストとキャラクターの表裏一体感はすごかったですが、ライブを重ねるごとにそれはどんどん強くなっていき、今回の4thではもはやキャストの存在を忘れかけるほどにキャラクターそのものな印象でした。特に今回は最後までキャストの自己紹介もなかったので、その印象はより強くなっていたような気がします。個人的にはCUE!に出会うまで二次元コンテンツのリアルライブにうまく馴染めていなかったのですが、CUE!のライブはキャラクターがそのままステージに出てくる印象で、1stライブを観た時に価値観が変わるほどの衝撃を受けたことを今でも鮮明に覚えています。今までもこれからも、二次元コンテンツのリアルライブにおいてCUE!を超えるものはないんじゃないかと思っていますし、これを経験した16人のキャストの皆さんは本当に素晴らしい役者に成長できたんじゃないかと思います。

 

今回のセットリストはアニメ全24話を意識して組んだものだったそうですが(長くなりそうなので各曲についての言及は控えます)、全体曲20曲+チーム曲1曲ずつの24曲で本編を構成し、アニメ22話のライブ部分をアンコールに持ってきたのがすごく良い采配だったなと思います。正直ライブ中は曲数なんて数えてないですし、アニメのストーリーをなぞったセットリストにしたという話は終演後に知ったのですが、結果的にすごく良い構成だったと思います。おそらくこれは偶然だと思いますが、これまでリリースされた全体曲は20曲、一方でアニメは24話という数字の差をちょうどチーム曲1曲ずつで埋められるという絶妙さで、しかもそのチーム曲に最初の曲を持ってきたのが良かったです。アニメの劇中曲(Project Himmel楽曲)を持ってくるという選択肢もあったと思いますが、時系列的にも初期のチーム曲がぴったりとはまっていたような気がします(欲を言えばアニメ本編でも特殊EDとして流して欲しかったですが)。CUE!のライブ本編は一種の舞台というかミュージカルというか、それだけで物語として作り上げられている印象なので、そこに劇中ライブの再現を持ってくるとまとまりが悪くなる気がするんですよね。そこで本編とは別枠にすることで全体のまとまりを維持しつつアニメの再現をすることができていて、アンコールの正しい使い方だなと思いました。あくまでアンコールはおまけということをうまく利用していて、かつ1コーラスずつにするというのもいいバランスだったと思います。蛇足じゃないかという意見も見かけましたが、アニメから入ってくれた人も一定数いましたし、アニメでちゃんとライブシーンを作っておいて再現しない手はないですよね。僕としてもアニメの出来に満足してるとは言えませんが、アニメならではの表現とか原作では見られなかった一面とか、見どころはたくさんあったと思います。そしてそれは僕がCUE!のエッセンスの一つだと思っている「過去を否定しない」ということにも繋がっていて、多少違えどアプリもアニメもCUE!の物語であることには変わりなくて、今回どちらのストーリーからも繋がるような構成になっていて、いつCUE!に出会った人も楽しめるような構成になっていたのが本当に嬉しかったです。結局この手のコンテンツって古参の内輪ノリになったら終わりなところがあるのですが、今回は古参にとっても新規にとっても楽しめる絶妙なバランスになっていたんじゃないかなと思います。そして今回は今までで最も密度の高いライブになっていたのも印象的でした。MCがないのはもちろん、本編の最初から最後まで常に曲か朗読が続く状態でステージから目を離す暇がなく、幕間映像すらも使わないというのはそうそうないんじゃないでしょうか。僕の経験上、MCとか幕間映像があると一気に集中力が落ちるのですが、このノンストップなライブのおかげで、常にCUE!の世界にどっぷりと浸かったこの上ない没入感が得られていたと思います。この高密度なライブ体験がこれで最後になってしまうと思うと本当に寂しい思いでいっぱいですが、これを生で体験できたことは本当に誇りに思います。

 

ここまで長々とまとまりのない文章を書いてきましたが、CUE!のライブは本当に何度行っても素晴らしいなと改めて思いました。これが最後になってしまうのは本当に惜しいですし、CUE!というコンテンツが区切りを迎えてしまうのも本当に寂しいです。この4年弱の間本当に色々なことがあったと思いますが、今回のライブでは本当にこの作品が愛されていて、そしてその集大成と呼ぶに相応しいものだと感じました。またCUE!という作品全体に対しての感想は別の記事で書きたいと思いますが、ひとまずこれまでCUE!を作り上げてきたキャストとスタッフの皆さんに感謝の気持ちを述べたいと思います。

 

 

 

 

 

 

#サンCUE!

2022年7月23日

こんにちは。

CUE!アニメ全体の振り返り記事を書こう書こうと思っていたら公式からお知らせが飛んで来てしまったので先にこの記事を書いています。

 

アニメ放送終了してからもなんの音沙汰もないあたりでだいぶ察してはいたので、このお知らせに対する正直な感想としては「やっぱりな…」というのが最初だったのですが、

やっぱり悲しいものは悲しいのでこのブログを書いている訳です。以前アプリが休止になった時に書いた記事があるのでそちらにも目を通して頂きたいのですが、

 

take-md.hatenablog.com

 

こうして正式に終わりを告げられてもやっぱり僕がCUE!というコンテンツを好きな気持ちは変わらないなと思っています。

 

では改めて何故CUE!というコンテンツが好きかという話をしようかなと思います。大きく分けて3つあるのでそれぞれについて語っていきます。

楽曲の良さ

上に貼り付けた記事でも書いていますが、僕がCUE!というコンテンツにハマった一番のきっかけはこれだったなと思います。他にも優れた楽曲をリリースするコンテンツはたくさんあるとは思うのですが、CUE!楽曲の大きな特徴として「ストーリーをよく知らなくても歌詞に込められた意味がある程度わかる」というのがあるかなと思います。世界観に関しては普通の現代日本ですし、キャラクター一人一人のキャラソンは存在しませんし、ストーリーごとのテーマソングも、ストーリー自体が等身大の「新人声優」を扱っているために、予備知識がなくても歌詞の内容がスッと入ってくるような気がします。それでいてストーリーをちゃんと読めばより歌詞の内容に対する理解が深まるようにもできているので、サブスク時代で気軽に聴けるようになった楽曲をうまく利用しているなと思いました。楽曲を入口にCUE!を始めただけあってCUE!楽曲を今でも毎日のように聴いています。ちなみにどうでもいいですが多分僕はSpotifyで2021年のAiRBLUE楽曲再生回数世界一です。

 

ストーリーの良さ

ソシャゲの類は全くと言っていいほど続かない僕がCUE!を半年以上プレイし続けられた理由はやはりこれかなと思います。もちろんフィクションなので「新人ばかりの声優事務所」「寮生活」といった部分は若干ファンタジーな部分でもありますが、基本的に現代の新人声優のリアルな部分をテーマにしているので、「この仕事は声優がやるべき仕事なのだろうか」とか「胸を張って声優と名乗れるようになるのはいつだろう」とか「自分はこれからも声優を続けられるのだろうか」などといった話題がよく登場しました。この辺りの結構センシティブな話題をちゃんと扱ってくれたのは本当に良かったなと思いますし、ソシャゲという媒体でそれを実現したのもすごいことだなと思います。小説や漫画ならば主人公を一人に設定して描くことができるのですが、ソシャゲではプレイヤーによって主人公(この場合はヒロインか)が異なる訳で、キャラクターごとに扱い方に差をつけるのが難しいんですよね。声優という世界は例え同じ事務所の同期でもどんどん売れていく人もいればいつまで経っても鳴かず飛ばずの人もいるというのが現実で、その「差」を描こうとするとソシャゲ媒体では難しいのですが、そこをストーリーごとに4人ずつ主人公を設定して描くことで、ある程度の差をつけつつも全体として大きな差が出ないようにうまくバランスを取っていたような気がします。それからこれはかなり個人的な意見ですが、この手のソシャゲでは珍しくプレイヤーキャラクター(マネージャー)の存在感が薄めだったのが良かったなと思います。初期のストーリーでは割と登場するのですが、ストーリーが進むにつれて存在感が薄くなっていった印象があります。個人的にキャラクターから好意を向けられるのが苦手というのもありますが、声優のマネジメントでできることは限られているということを反映したものだったのかなと思っていて、声優たちが成長するにつれて口出しすることが減り、ただ見守るだけの存在になっていく様子が反映されていたのかなと思います。極端な話、十分に声優としてやっていけるようになればマネージャーがいなくてもフリーで仕事はできますし、マネージャーがあまり大きな存在でなかったのは本当に良かったなと思います(アニメでは一切登場しませんでしたし)。それからマネージャーの性別が明言されていなかったのも良かったところですね。男性固定でも女性固定でも男女選べる訳でもなくあえて「性別不詳」というスタンスにすることで、読み手の感性によっていろいろな受け取り方ができるストーリーになっていたのも印象的でした。一部のシナリオではやや恋愛要素を含んでいるとも受け取れるものもありましたが、直接的な描写を入れてこないのがCUE!のシナリオの美点だったなと思っています。一方でキャラクター間の関係性はかなり丁寧に描かれていて、これも明確な恋愛描写を控えつつも信頼関係や友情をしっかりと描写していて、捉えようによっては百合としても楽しめる絶妙な温度感が印象的でした。こうして振り返ってみると、全体的に直接的な描写が控えめで、読み手の想像に任せるやや文学的なシナリオが多かったような気がします。その辺りが僕の感性にフィットしたのかなと思っています(何かしらの形でまた読ませてください)。

2次元と3次元の表裏一体感

これは初期から売りにしていた部分でもあるのですが、やはりキャラクターもキャストも「新人声優」というのは今までになかった試みであり、またCUE!の大きな特徴でもあると思います。そもそも「声優」をテーマにした作品自体がさほど多くないのもありますが、新人を多く起用する大きめのコンテンツは大概アイドルコンテンツであり、キャラクターもキャストも同じ声優という職業というのはおそらく初めてのものだったと思います。そしてキャラクター設定もキャストに合わせて追加・変更されたものもあったりと、キャストとキャラクターをとにかく寄せていたのが特徴でした。ここまでしていたのはやはり「キャストとキャラクター両方の成長」をテーマにしていたからで、それによってキャストが既存のキャラクターを「演じる」というよりはキャラクターがキャストの「もう一つの人格」ぐらいの距離感になっていたように思います。そしてそれはライブの時に最もよく感じられて、ステージ上のキャストは徹頭徹尾「キャラクター」としてパフォーマンスをしていたのが印象深いです。CUE!のライブは基本的にMCなしで代わりに朗読劇が差し込まれるのが特徴という話を前にもしましたが、この構成によってステージ上ではキャストの人格は消え、キャラクターがそのまま具現化したようなパフォーマンスが行われます。あくまで曲をメインに据えたライブでありながらも、曲以外の部分でも演じ続けるというのはミュージカルや舞台のような趣で、これによって2次元側の世界観をそのままステージに持ってきているような感覚になります。初めてCUE!のライブを観た時はこの構成に本当に感動しましたし、今でも2次元コンテンツのリアルライブの理想形だと思っています。これができるのはやはり「キャストとキャラクターが共に成長する」というコンセプトを貫いてきたからだと思いますし、それは間違いじゃなかったと声を大にして言っておきたいなと思います。

 

他にも好きなポイントを挙げればキリがないのですが、僕が思うCUE!の魅力は大きくこの3つであるというのは2年前から変わっていません。この要素を満たしてくれるコンテンツにはもう二度と出会えないだろうなとも思います。では何故このような結末になってしまったかということも少し考えたいと思います。

リリース初期のゲーム性

僕がアプリ版CUE!を始めたのはリリースから半年以上経った2020年8月なので、実際にリリース当時のアプリをプレイしていた訳ではないのですが、画面を開いたまま放置しておかなければならない時間が長く、そこでだいぶユーザーが離れてしまったのではないかと思います。僕が始めて以降でさえもゲーム性そのものはあまり褒められたものではなかったので、初期のそれはだいぶアレだったんだろうな…と思います。

課金要素の少なさ

実際僕もほとんど課金していなかったのですが、ゲーム進行にあたって課金をすることの優位性があまりなかったような気がします。もっとも僕は他のソシャゲをあまりやったことがないのでなんとも言えませんが、課金専用ガチャはかなり少なかったような気がしますし、イベントもランキング形式のものが少なく、唯一恒常的にランキングが出るものとして存在した「絆ptランキング」も、課金してどうにかなるものではなかったと記憶しています。そして普通に無課金でも結構な頻度でガチャを回せてしまう程度には石の配りが良かった印象で、課金することの優位性が相対的に低くなって売上に繋がらなかったのかなと思います。

シナリオ

さっき褒めた部分ではあるのですが、「万人受け」という意味ではよくなかったかなと思います。僕は全く共感できないのですが、男性向けソシャゲユーザーの多くはプレイヤーにヒロインが好意を向けてくるのを好んでいる印象があって、そういう層には正直刺さらないだろうなというのは当時からずっと思っていました。僕のように壁や観葉植物ぐらいの視点を好む層も一定数いるとは思うのですが、声優ファンにそういう層は少ないような気もするので、ニッチなカテゴリーの中のさらにニッチな層にしか刺さらなかったのかなと思います。要するにシナリオそのものが良くてもターゲティングが難しすぎたという訳ですね。

リリース時期

こればかりは誰も悪くないので仕方ないのですが、リリースから1年ぐらいほとんどイベントを打てなかったことも大きかったかなと思います。リリース前後こそイベントはできていましたが、本来2020年4月に開催予定だった1stライブが半年以上延期になったり、出演予定だったアニサマが中止になったりと本当にタイミングが悪かったなと思います。もしあと1年早く、または遅くリリースしていたら状況は違ったかもしれないと思うとやるせない気持ちになってしまいます。もっとも、仮にそうだったらおそらくキャスティングも今の16人ではなかっただろうなとも思うので複雑な気分ですが…。

アニメ

アニメ化発表当時からそう思っていたのですが、やはり1周年でのアニメ化発表というのは早すぎたような気がします。おそらくは新規層を発掘する意図でのアニメ化だったと思うのですが、それならば逆にアニメを先にやるべきだったと思いますし、結果としてアニメでせっかく発掘した新規層をこうして埋もれさせてしまうことになってしまったのは本当にもったいなかったと思います。アニメ自体は24話全ての感想ブログを書く程度には楽しみましたが、正直なところ原作シナリオの面白さは一部しか表現できていなかったと思いますし、アニメを2クールも作る予算があるならそれをアプリの方の改善に使って欲しかったな…と思います(リベルとポニキャンの2社が絡んでいるので予算周りはいろいろややこしいのかもしれませんが)。

 

とまあいろいろと挙げましたが、結果は変わらないのでこの辺にしたいと思います。大きめのコンテンツを維持するのは本当に大変なことだと思うので、ここまで3年弱続けてくれただけでも感謝しています。始まりがあれば終わりがあるのは必然で、それが思ったより早く、そして思わぬ形であったのは悲しいですが、CUE!というコンテンツに出会ってたくさんの時間とお金を使ったことに後悔はありませんし、この作品が好きな気持ちはきっと忘れないと思います。願わくばこれまでのCUE!の軌跡を可能な限り形として残して、そして手元に持っておきたいので、シナリオだけ読めるようにしたオフライン版アプリ、あるいはシナリオブックや設定資料集、イラスト集といった書籍などの媒体で残して頂けたらなと思っています。

 

CUE!は本当に僕の人生において最もハマったコンテンツになりました。10年ほどオタクをやっていて、半年以上ソシャゲをプレイし続けたのも、二次創作をしたのも、アニメの感想ブログを書いたのも、片っ端からイベントに行ったのもCUE!が初めてです。だからCUE!というコンテンツを生み出して頂いたことには心から感謝していますし、このコンテンツに関わった全ての方に誇りを持って頂きたいとも思っています。もちろんそれはCUE!を好きになってくれたファンの皆さんもそうで、これからもCUE!を好きだったことを忘れないで欲しいなと思います。アニメが終わって、アプリの再開はなくてもAiRBLUEの16人は生き続けています。そのことをどうか忘れないでください。

 

スタッフの皆さん、キャストの皆さん、そしてファンの皆さん、どうか CUE!を最後までよろしくお願いします。

 

 

#サンCUE!

TVアニメ「CUE!」24話感想

こんにちは。

1月から2クールにわたって放送されたTVアニメもついに最終回を迎え、各話感想ブログも今回で最後になります。前回の記事はこちら↓

 

take-md.hatenablog.com

 

24話、なんだかんだでいい最終回だったな〜と思います。ここまでのストーリーではそれぞれが何かしらの仕事を得て、辛いことも楽しいことも仲間とぶつかったり協力したりしながら経験してきたという描写でした。今回はそれを踏まえつつも敢えて仕事のない様子を描いていて、僕が好きだったCUE!の原作ストーリーのエッセンスが詰まっていたような気がします。欲を言えばもう少しこの辺りの描写に2クール目丸ごと使うぐらいの勢いで尺を使って欲しかったなといったところですが、その辺りはまた別の記事で書こうかなと思っています。

まずAパートでは「仕事がない様子」をメインに置いていたのが今までとは大きく異なる部分だったかなと思います。もっとも序盤は皆そうでしたし、特にMoonは自分たちを「産廃」と自虐するほどに1クール目では仕事がなかった様子が描かれていましたが、それと大きく異なる点としては「アニメのアフレコやライブといった仕事を既にしているにも関わらず、また仕事のない状態になってしまっている」というところですね。声優、というか役者全般そうですが、基本的に不安定な仕事なので一度役が決まったからといって次の仕事があるとは限りません。一度名前のある役を貰えば次の仕事に繋がりやすいという部分はありますが、新人だろうとベテランだろうとオーディションで「その役にふさわしくない」と判断されてしまえば役、つまり仕事はもらえない訳で、時折ラジオ等で耳にする「声優は毎日が就活」という表現はその通りなんだろうなと思います。実際今回も利恵や陽菜がオーディションを受けていたり、それ以前に受けていたオーディションの結果はAiRBLUEからは誰も合格していなかったりと、落ちることの方が多いオーディションの現実を描いていました。ではアニメ化と出演が決まっている「プロジェクトHimmel」の方はどうかと言えばアフレコは1年後とまだまだ先で、(イベントなどは何回かあるでしょうが)それまではやはり仕事がない様子でした。この辺りも割とリアルなところで、アフレコまで1年とはいかないまでもある程度の期間が空くのは普通でしょうし、その間に他の仕事がなければやはり暇なんだと思います(ちなみにCUE!はアニメ化発表から放送まで1年2ヶ月、PVが出るまで10ヶ月弱だったのでアフレコまでは半年程度は空いていたと思います)。そんな中で新人声優たちの頭を過ぎるのは「果たして自分は『声優』と名乗れるのだろうか」という疑問です。バイトばかりに日々に「ずっとこうなのかな」と漏らす千紗、「仕事がなければただの学生」という現実を再確認するほのかの台詞はそれを象徴していて、「仕事をもらって声優人生をスタートさせた。でもその先は?」というテーマの原作「beautiful tomorrow」のストーリーを思い出しました(あまり大きな声では言えませんがネット上に転がってるので気になった方は読んでみて欲しいです)。前にも書きましたがこれはCUE!のテーマの一つで、声優という世界にゴールはなく、「声優になる」ということはあくまでスタートでしかない訳で、それぞれがどういう声優になっていくか、あるいは声優を辞めて別の人生を歩むかということは本人を含めて誰にも分からないし、そして一つとして同じ道はないことを表現していたように思います。それに関連して、千紗と莉子の会話の中では「年齢」が話題に挙がっていました。千紗はチーム内で最年長かつ唯一学生ではないという立場で、年下のチームメイトに囲まれ、過ぎていく時間に対してやや焦りのようなものを感じさせる発言をしていました。それに対して莉子は千紗よりさらに年上(千紗は18歳、莉子は21歳、時間経過を考えれば19歳と22歳かも)で、莉子はチーム内では最年長ではないながらも唯一学生ではないという立場(絢とまほろは大学生、美晴は院生)は千紗と似ている部分があります。最近は一時期に比べれば新人声優の低年齢化は落ち着いてきている印象がありますが、それでもやはり年齢が若いということは新人声優にとって明確な強みであることには変わりないと思っているので、年齢を気にする描写はリアルでいいなと思います。ちなみにこれも原作「カレイドスコープ」にあった要素で、その際は「オーディション落ちても次頑張ればいいじゃないすか」(うろ覚え)と言う舞花に対して「舞花の次の数と私の次の数、たぶん違うんだよね」と舞花より4歳上の莉子が言うシーンがあったんですよね。他にも追試だらけの舞花とそれに対して苦言を呈するほのかの間で学校、そして勉強が声優人生において重要かどうかで一悶着あったりという描写があったりと、今後の人生設計に繋がる部分についてしっかり扱っていたのが印象的でした。この辺りは他の作品ではあまり見られない部分でもあって、下は15歳、上は22歳という幅広い年齢でいろいろなバックグラウンドを持ったキャラクター達が一人一人「社会人」として声優という職業と向き合っていく姿が描かれているCUE!の良さをアニメでも表現してくれていたように思います。

それから「声優は孤独なもの」という真咲社長の発言と、それに対してのAiRBLUEという事務所の立ち位置についても書いておきたいと思います。この辺りの話は前にもどこかで書いた気がしますが、「声優は孤独なもの」というのは事実で、むしろ今までチーム単位で活動していたことの方がイレギュラーです。声優という仕事をしていく上では普通それぞれがオーディションを受けて、合格する人もいれば不合格な人もいて、ある作品では共演した仲間が次の日にはオーディションで同じ役を争うライバルになるかもしれないというような本当に個々人の世界です。宮原颯希さん(赤川千紗役)が「いかにも個人事業主って感じ」という表現をされていましたが、特に今の声優業界は少ない活躍のチャンスを非常に多くの声優たちが争っている状況で、それぞれが自分の仕事を得るために必死なんだろうなと思います。今回も最初に利恵と陽菜が受けていたオーディションは実はその二人が指名で呼ばれていて、他のメンバーはオーディションに参加することもできていない状況であることが描かれていました。同じ事務所の同期でも既に活躍のチャンスは平等ではないという状況は「声優は孤独なもの」ということを強調していたように思いますが、そんな中でも舞花から「応援したい」という言葉が出てきたのは、これまでの積み重ねがあったからであると同時に、AiRBLUEという事務所をこのような形で立ち上げた真咲社長の狙い通りなのかなと思います。立ち上げたばかりの事務所に実績も経験もない新人を16人も集めて寮まで用意するという冷静に考えるとめちゃくちゃな設定ですが、同じスタートラインに立って共同生活を送ってきたことで、孤独な声優という仕事をしていく中でも常にそばに仲間がいるという状況を作ることができています。真咲社長は「暗い道に踏み出す一歩目にほんの少し声をかけてくれる仲間がいたら人の可能性はどれだけ広がるか」ということを言っていますが、学校や会社ならば近い境遇の人が身近にいることが多いところ、先にも述べた通り声優は普通そうではないので、こうして同じ境遇の仲間がそばにいることはきっと心の支えになるんじゃないかなと思いますし、お互いにライバルとして切磋琢磨する効果もあると思います。それは家族や(声優以外の)友人ではできない役割でもあるので、たとえ進む道が違っても、一緒に仕事やレッスンをした経験や共同生活を営んでいることは他の事務所では得られない強みになっていくんだろうなと思います。

そしてBパート、AiRBLUE1周年ということでラジオ「向かい風をつかまえて」に16人全員が出演する特別回の様子が描かれていました。これは1年という節目(アニメ的には最終回)で16人それぞれの活動を振り返るという役割と同時に、直前に「声優とは何か」という疑問に対していろいろと話し合うWindの様子が描かれていて、それに対する「声を届けること」というアンサーでもあったと思います。そしてこの1年で16人が得たものに関しては陽菜の言葉に集約されていると思っていて、一括りに「新人声優」といってもそれぞれがデビューまでに歩んできた道は違って、もちろんそれぞれが感じてきたことや強みなんかも違っていて、そしてそんな仲間たちと一緒に生活してきたことによって自分にいい影響があったということですね。先ほども書きましたが、AiRBLUEという新人ばかりの、そして全寮制の特殊な事務所で共同生活を送り、お互いのいい部分も悪い部分も見てきて、こうしてお互いに影響し合うことで成長しているという姿が本当にAiRBLUEの、そしてCUE!という作品のコアの部分だと思います。そしてその個性を「色」と表現しているのが好きなところで、「私もみんなの光を受けて色々な色が混ざった光で」と話す陽菜の瞳に色々な色が映っている表現もグッときましたね。陽菜の瞳の色がグレーであることに対しては今まで特になんとも思っていなかったのですが、ここでそのキャラデザを活かしてくるとは思いませんでした。12話で「自信なんて全然なくて」と語っていた陽菜でしたが、あの色素の薄い感じのキャラクターデザインはそれを反映していたのかもしれないなと今になって思います。そしてそんなそれぞれの色を纏った16人の声優のタマゴは、自分たちの「声」で今までを振り返り、そして未来への希望と不安を語りつつも、今の自分たちに自信を持って「私たち『声優』です!」と言えるようになったんですよね。今までずっと、なんならこのラジオの冒頭の挨拶でさえ「声優のタマゴ」と自称していた新人声優たちは、1年という時間、そしてその中での活動を踏まえて、殻を破って「声優」と胸を張って言えるようになったと思うと胸が熱くなります。今回の「はじまりのおわり」というサブタイトルは「もう『タマゴ』じゃない」ということを端的に表現していたのかなと思います。

そして「色」という表現を使ってきた時点でそうだろうなと思っていたのですが、やはり今回の特殊EDは「ミライキャンバス」でした。22話では「マイサスティナー」を「合ってない」と言いましたが、今回はBパートの脚本をミライキャンバスの歌詞をベースに考えたんじゃないかなと思うほどにしっくりきましたね。


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ミライキャンバスという曲は一言でまとめると「過去を肯定し、現在地を再確認し、期待と不安の詰まった未来へ繋げていく」という曲なので、アニメの最終回とも相性が良かったなと思います。直前で過去を振り返り、今この瞬間自分たちが「声優」であることを再確認し、そして少し先の未来の様子を描きながらこの曲を流すのはいい演出だなと思いました。「少し先の未来」と言ったのは、本編では高校生だった舞花が卒業していたりはするものの、基本的には今までと変わらない日常を送っている様子で、まだまだその先の未来が何色にでもなっていける段階が描写されていたからで、直近で言えば「蒼き谷のアルマ」のオーディション前の様子だったと思います。「蒼き谷のアルマ」は1話で陽菜が養成所の教材として使用していた作品であり、そして陽菜が声優を目指したきっかけでもあり、さらにAiRBLUEの真咲社長の主演作でもあるという、陽菜とAiRBLUEにとって特別な作品であることが描かれています。最後はその「蒼き谷のアルマ」のオーディションシーンで締められていますが、これも冒頭との対比になっていて、「ハムレット」の朗読レッスンや「ブルームボール」のオーディションでは最後まで手を挙げられなかった陽菜が今回は真っ先に手を挙げていたのが印象的でした。それは陽菜にとってこの作品が特別であるからというのと同時に、陽菜がこの1年で成長できたからに他なりません。もちろん他のメンバーもそれぞれ成長しているのですが、「蒼き谷のアルマ」という作品に対する陽菜の思い入れというのを1話から描いてきて、そして1話ではまだ「声優のタマゴ」ですらなかった陽菜が演じていた作品に今「声優」として声を吹き込むことができている、ということを踏まえると誰よりも成長の幅が大きいのが陽菜なのかなと思います。オーディションでの「誰にでも羽ばたける空がある」という台詞はおそらくこの作品を象徴する台詞であると同時に、声優を目指す陽菜にとって道標になるような言葉でもあっただろうなと思うので、最後の台詞がこれなのも締めとして良かったなと思います。

最終回にして今まで以上にまとまりのない文章になってしまったような気がしますが、書きたいことは一通り書けたかなと思います。途中いろいろと思うことはありましたが、最終回でしっかりとまとめてくれていたなと思います。改めて振り返ると色々な気づきがあったのでその辺りも書こうかと思ったのですが、既に5000字を超えていてとんでもなく長く、そしてさらにまとまりのない文章になってしまいそうだったのでまた別の記事で書こうかなと思います。

改めて6ヶ月に及ぶTVアニメ「CUE!」全24話完走お疲れ様でした。こんなご時世の中一度も放送スケジュールが崩れることなく2クール放送できたのはすごいことだと思います。そしてこの感想ブログに付き合ってくださった方、拙い文章で申し訳ありませんでしたが読んでくれてありがとうございました。また振り返り記事を別で書くと思いますが、各話感想ブログはこれで最後になります。何かと飽きっぽい自分が一人でここまで何かを続けてこられたのはここ数年で初めてで、それだけCUE!という作品には思い入れがあります。アニメは終わってしまいましたが、今後の展開がどうなるかを含めてまだまだCUE!を楽しんでいきたいと思います。それでは。

TVアニメ「CUE!」23話感想

こんにちは。

勢いで始めてしまって毎週書いてきた感想ブログも来週で最後だと思うと少し寂しい気持ちになっています。前回の記事はこちら↓

 

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23話は直近数話と比べるとドラマチックな展開がなかった印象でしたね。もっとも、22話でライブという大きなイベントを終わらせてしまったので残り2話でこれ以上大きなイベントは描けないというのはあったと思いますが、それ以上に今回は「日常」というものをテーマにした回にしたかったのかなと思います。

今回は主に「ブルームボール」最終回のアフレコを中心に描いていましたが、今までのアフレコ回と大きく異なった点があります。それはアフレコで一度もNGが出ることなくスムーズに進んだ上、最終回であるにも関わらず記念写真を撮った以外は特に何もなく終わるという、これまでのアフレコシーンと比べてかなりあっさりした描写になっていたことです。このことについて第一印象としては物足りないなと思っていたのですが、ここまでのストーリー、そして23話というタイミングを踏まえるとこういう描写にしたことに納得がいきます。

まずアフレコ中の描写について、8話、10話、17話ではそれぞれ志穂、舞花、ほのかが「普段と違う表現」について悩み、試行錯誤をしながら演技をする姿が描かれていましたが、一方で今回の利恵は大幅に変化をつけた演技が求められるにも関わらず一発OKという描写でした。事務所のスタジオでの読み合わせではスズカの演技に対して「今ひとつ物足りない」というような評価を受けていた利恵でしたが、本番できっちりと求められる演技をできたのには理由があります。まず桐香先生からの「自分を信じる」というアドバイス、これを上手く受け止められたことが一つですね。聡里も指摘していた通り「自分を信じて」「自分らしく」といった言葉は綺麗事、というか無責任に聞こえることも多いのですが、利恵はこの言葉を「今までの自分の精一杯をぶつける」という風に解釈できたことで上手く演技に昇華することができました。そしてこれまでの描写を振り返ると、利恵は朗読劇にライブにと色々と活動してきていて、特にアフレコでは噛むことが多く何度もリテイクを重ねていましたし、自分だけでなく共演者たちがリテイクを重ねてより良い演技を生み出していく過程も見てきていたはずです。そういった経験を踏まえて、それを演技に乗せることで感情のこもった芝居をすることができたのだと思います。そして二つ目、これは利恵自身のキャラクターと本能寺スズカというキャラクターに共通点があったこと、言うなれば「ハマり役」だったことが挙げられます。13話でのオーディションの際にはここまで詳細なキャラクター設定は明かされていませんでしたが、スズカには二面性、というか二重人格に近いものがあります。一方、利恵は根は真面目ながらも普段から厨二キャラを作っており、二重人格とはいかないまでもキャラクターとしてはスズカと似ている部分があります。そこが上手く共鳴して、今回利恵はスズカの演技を割とすんなりこなせたということですね。実際「ハマり役」というのはあると思っていて、今まで観てきたアニメでも「このキャラクターはこのキャスト以外あり得ないな」と思ったことは何度もありますし、CUE!アニメでも志穂の声質とアマギのキャラクターについてもそういった評価をされている描写がありました。今回の利恵は声質ではなくキャラクター性が上手くハマった形になっていて、「ハマり役」のもう一つのイメージをわかりやすく描写していたように思います。そして最後の記念写真で真ん中に写るよう促される利恵の様子は、その演技が評価されていることを強調していたような印象でした。

そしてアフレコ後の描写について、「ブルームボール」1期の最終回のアフレコを描いていた12話では陽菜と原作者の無量坂先生が感謝を伝え合うシーンが印象的でしたが、今回は記念写真を撮った描写だけに留められていました。これにも二つ理由があると思っていて、まず一つは「陽菜の演技をきっかけにモモミというキャラクターが生まれた」というドラマがあった1期に対し、今回はあくまで「もともとあったスズカというキャラクターに利恵の演技がハマった」というものなので、そこまで特別なものではないということが挙げられます。もう一つは「アフレコ自体が特別なものではなくなってきている」というものが挙げられると思います。彼女たちにとってこの作品は初めて名前のあるキャラクターを演じる機会であり、今回もそれを噛み締めながら演技をする様子が描かれていましたが、1クール目最終回の12話と比べると、今回は2クール目も終盤の23話という時間軸で、それまでにAiRBLUEのメンバーは様々なことを経験してきています。「ブルームボール」1期から出演しているメンバーは最終回というものも初めてではないですし、そうでないメンバーもモブ等で他のアニメに出演していたこともあるでしょう。そういったことを考えると、12話の頃と比べてアフレコというものは特別なものではなくなり、むしろ生活の一部になってきているはずで、今後もアニメの最終回のアフレコというものを何度も経験していくことになると思います。だからこそ今回はアフレコシーンを比較的あっさりめの描写にしたのかなと思っています。

さて、冒頭でも今回は「日常」をテーマにしていたと書きましたが、それは冒頭のシーンとCパートに濃く表れていたように思います。冒頭とラストのシーンを重ねる演出は個人的には「となりの吸血鬼さん」を思い出しましたが(あちらは第1話と最終回ですが)、服装の変化も相まって「日常が続いていく」ということを効果的に演出しているような気がします。Aパートでも凛音が「最終回のアフレコが終わったら私たちどうなってるかな」ということを言っていましたが、アニメのアフレコは始まったら終わりが来ますし、ライブも終わってしまえば次が決まるまではそこで終わりです。それでも声優という仕事を続けていく限りは何度もオーディションを受けて、受かればアフレコに参加し、落ちればまた次のオーディションにという日々を繰り返すことになりますし、それ以外にも学校に行ったりバイトをしたり、はたまたオフの時間は友達と遊んだり趣味に没頭したりと、「日常」は続いていくんですよね。しかも声優という世界にはゴールはないので、その「日常」は少しずつ変化しながら半永久的に続いていくことになります。これまではアフレコやライブといった直近の目標に向けて頑張る姿が多く描かれていましたが、それがひと段落した今回は最終回に向けて「次」のこと、それもあるかどうか分からない曖昧な未来に目線を向けていっているのかなと思います。しかも次回(最終回)のサブタイトルは1話の「はじまりのはじまり」に対して「はじまりのおわり」になっているんですよね。つまりここまでで描かれていたのはあくまで「はじまり」に過ぎず、彼女たちの声優人生はここからが本番ということを示しているんだと思います。

冒頭でも書きましたが、今回はドラマチックな展開が少なく、最終回に向けてのまとめに入った印象が強かったです。CUE!という作品は特性上ストーリーにゴールがないので、俗に言う「おれたた」エンドになるはずで、その最終回に向けてのまとめとしてよくできていたように思います。PVを観る限りは最終回もこういった「日常」を描いてふわっと終わりそうな気がしているので、アニメが終わってからのCUE!の展開がどうなるかが非常に気になるところです。いよいよ今週末に迫った最終回、楽しさと寂しさ、そして今後への期待と不安が織り混ざった気持ちで待ちたいと思います。それでは。

 

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TVアニメ「CUE!」22話感想

こんにちは。

今回は書きたいことが死ぬほどあるのでかなりの長文になってしまうと思いますがお付き合い頂けると嬉しいです。前回の記事はこちら↓

 

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22話、正直初見では過去一と言っていいほどに全然ピンと来てなくて「ブログ何書こう…」と思っていたのですが、2回3回と観ているうちに少しずつ馴染んできた感じがあります。個人的には20話と近い印象で、いろいろな要素を盛り込んだ結果微妙にちぐはぐになってしまったかな…というような感想です。やりたいことは伝わってくるんですがどうしてもアニメのストーリーとうまく調和していない気がするんですよね…。

というわけで具体的にどこがどうでどう思ったかという話をしていきたいと思います。まずはライブに向けてのレッスンをこなしつつも、他の仕事もあり、そしてオフの時間もあるという描写、ここはとても良かったなと思っています。特にライブ自体初めてのブルームボール組(Flower)、ラジオ組(Wind)に重点が置かれていた印象があって、初めての舞台を前にしての期待や不安といったものが描かれていました。そんな中で、最もライブ経験の多いVogel組(Bird)が前日にいなり寿司を作るという流れも良かったですね。この辺りは13話冒頭の陽菜と利恵の会話などにも表れていて、最初こそ同じスタートラインから声優人生を歩み始めた16人ですが、これまでにそれぞれ少しずつ違う色々な経験を積み重ねていて、ある分野で経験の豊富なメンバーはそうでないメンバーを支え、また別の分野では逆に支えられるという構図が出来上がっていることが読み取れます。最初こそバラバラだった16人が4人ずつ集まり、そして今となっては16人でお互いを尊重して支え合えるようになっているという描写はやはり2クールというゆとりのある尺だからこそできたんだろうなと思っています。

一方でどうしても気になってしまう部分も少なくなかったです。まずライブの日程についてですが、どう考えても早すぎるんですよね。一般にこの手のライブは1年以上前から会場を抑えて準備を始めていくものだと言われていて、告知も大体3ヶ月〜半年程度前に行われるのが一般的です。そんな中、「プロジェクトHimmel」美晴が日本に帰ってくるタイミングから察するに「ライブが決定した」という連絡を受けてから長くても2ヶ月ぐらいしか経っていないことになる気がします。そんな細かいこと気にするなよと言われたらそれまでなのですが、どうも展開が急すぎる印象なんですよね…。これはライブに限らず「プロジェクトHimmel」全体としても気になる点で、そもそもライブとCDリリース以外に何の活動が行われているのかよく分からないのにも関わらずここまで大きなコンテンツになっていることには少々違和感があります。19話冒頭でチラッと登場した雑誌に特集記事があったりしたので、何かしらのメディアミックス展開がされているはずではあるのですが、その具体的な内容が描かれていないので、ここまで大きなコンテンツに成長したことへの説得力が今ひとつ足りないなと思ってしまいます。

続いてライブパートですが、アニメ化が決まった時から「『Forever Friends』のライブをアニメで再現する」ということを夢見ていたので、それが実際に観られたのは単純に嬉しかったですね。単に原曲を再現するだけではなく、歌割りや4人ずつに分かれるステージの使い方などにアニメオリジナル要素を入れることによって、これまで「CUE!」と「AiRBLUE」の曲であった「Forever Friends」という曲を、アニメの中で「AiRBLUE」と「プロジェクトHimmel」の曲に仕立て上げることができていたように思います。CUE!というコンテンツにおいてはキャラクターの16人とキャストの16人を合わせて「32人」という表現を使う機会が度々あるのですが、「Forever Friends」という曲は特にそうで、キャラクターとキャスト両方に寄り添った楽曲という印象が強いんですよね。

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この辺りのことは2ndの記事に書いてあるので目を通していただけると嬉しいのですが、CUE!というコンテンツの特色として基本的にライブ中は徹底して「キャストがキャラクターを演じ続ける」ことがあります。従ってライブ中にステージにいるのは「キャラクター16人」なのですが、最後にキャストが自己紹介をすることによって「キャスト16人」の人格がステージ上に出現し、1st、2ndライブでその後に披露された「Forever Friends」は「32人の曲」になったという訳です。そういう意味でも「Forever Friends」は特別な楽曲なのですが、今回そのエッセンスがアニメでも表現されていたように思います。chun×4の出番前に悠希が呟いていた「やっぱり私は声優で、今は歌うことで魂を入れてる」という台詞にもそれが象徴されている気がしていて、キャラクターソングを歌うということはつまりキャラクターを演じることなので、「プロジェクトHimmel」のライブもそれぞれのユニットのキャラクター口上から始まり、最後のchun×4のパフォーマンスが終わるまではキャラクターを崩していなかったと思います。そして各ユニットのパフォーマンスが全て終わって初めてMCが入り、ようやくキャストの素が出るという構成はCUE!のライブと通じるものがありました。そしてその後に披露された「Forever Friends」はキャストとキャラクターの曲、つまりここでは「AiRBLUE」と「プロジェクトHimmel」の曲になっていたと思います。CUE!というコンテンツの文脈での立ち位置と同様に、アニメの中での「プロジェクトHimmel」の文脈でもこの曲を「32人の曲」に仕立て上げてきたのは素直に嬉しかったですね。それから歌詞にも少し着目すると、「Himmel」は「大空」という意味であると劇中でも言及されていましたが、「Forever Friends」には「終わりなんてない この青い空で つながっているから」というフレーズがあるんですよね。これに合わせて「プロジェクトHimmel」という名前にしたのかそうでないのかは分かりませんが、空のモチーフがここで繋がるとは思いませんでしたね。今までそんなことは全く思いつきませんでしたが、「同じ空の下で繋がっている」という表現はウィーンに行った美晴のエピソードとも合っているような気もします。サビにも「たとえ雲が光遮る日にも」というフレーズがあったりしますし、「空」というモチーフは夢を追うこと、そして「それぞれの道歩きながら」というフレーズが表す通り、一つとして同じ道はない声優という職業との相性がいいのかなと思ったりします。実は「AiRBLUE」という社名にもそういう意味が込めらていたりするのですが、舞台袖での真咲社長の発言からしても今後言及があるかもしれないので詳しくは書かないでおきます。それから曲中に挟まれていたシーンではチームの垣根を超えてメンバー同士が交流する姿が描かれていたのも良かったですね。これまでに積み重ねてきた時間があるからこそのシーンだと思いますし、そうして単なる仕事仲間というだけではない関係性を築いているからこそ今回のライブが成功できて、そして「築いた絆はそう消えたりしない」んですよね…。ここのシーンが今まで通りチーム毎だったら全員で「Forever Friends」なんてタイトルの曲を歌うことに説得力がないような気がします。そして最後のアニメ化発表、これは完全にCUE! 1st anniversary Party 「See you everyday」のオマージュですね。CUE!アニメ化発表の映像はパッケージではカットされているので現在観ることはできませんが、このシーンを観てすぐに当時の記憶がフラッシュバックしました。やはりライブでのサプライズ発表は定番とはいえ嬉しいですし、逆にアニメの中でアニメ化発表を見ることはそうそうないので新鮮な気もします。今後「プロジェクトHimmel」のアニメ化企画がどう動いていくのか、そしてそれが描かれるのかは不明ですが、ライブシーンと共に現実世界と重ねる演出は原作を追っていた身からすると嬉しかったです。

とはいえライブシーンにも色々と言いたいことはあって、まず今回が初お披露目の2ユニット(Windの「Harmonia」、Flowerの「Meguli-華」)が止め絵だったのが気になりました。ここまで表だった活動がなかったユニットの初お披露目が止め絵なのは流石にどうなのかと思いましたし、18話では同様に初お披露目だったLUNΛ ω rabbitsがしっかりしたライブ映像をつけられていただけにどうしても気になってしまいます。予算や制作スケジュールの問題もあるでしょうが、初お披露目なら1コーラス分ぐらいはライブ映像を作って欲しかったなというのが本音です。というかそもそも今回のAパートの内容とBパートの内容をそれぞれ1話ずつ割くぐらいの方がもっと丁寧なライブ前の緊張感の描写やライブシーン自体の豪華さが出せたような気がしたので、何故1話にまとめてしまったんだろう…と思わなくもないです。それから衣装についても少し突っ込んでおきたくて、11話で勢い余って社長が16人分作ってしまったという設定があるのはさておき、全てのユニットで共通テイストの衣装というのはやはり違和感があります。曲はちゃんとそれぞれにテイストが違うので、衣装だけが共通というのが目立ってしまっている印象なんですよね。そもそもキャラクターのイメージカラーと衣装の差し色も合っていませんし、この衣装を出すなら「Forever Friends」のパートだけにして欲しかったと思ってしまいます。そして各ユニットのパートではハンドマイクでのパフォーマンスだったのに「Forever Friends」はマイクが消滅していたのが気になって仕方ないんですよね。よくよく見るとchun×4はステージに出てきた時点ではマイクを持っているのに曲が終わった時には持っていないという謎現象が発生していますし、ライブパートの発注ミスなのかな…と思っています。自分がハンドマイクでのパフォーマンスを見慣れ過ぎているせいもあるとは思いますが、やはりこの辺りは強烈な違和感がありました。一貫してマイクがないならまだしも、途中で消滅するのは流石に気にせざるを得ないです。そして今回の特殊ED「マイサスティナー」についても一言言っておかなければなりません。確かに「マイサスティナー」はいい曲なのですが、今回の話数とは合っていないと思いますし、そもそもあの流れでわざわざ別にEDを流す必要性を感じなかったんですよね…。今回流れたのは「マイサスティナー」の落ちサビからでしたが、「酸いも甘いも優劣も 抱えては振り切っていくの」という歌詞と今回の内容は合っていない気がするんですよね。最終回で流れるならまだ分かるのですが、少なくとも22話では「酸い」も「甘い」も「優劣」も感じる機会はなかった気がします。強いて言うなら「またキミへ またキミへと 歌を繋いでいく」の部分は合わなくもないかな…という気はしますが、やはりここじゃない感がありましたね…。

色々と書いてきましたが、やはり要素要素は原作愛を感じましたし、「Forever Friends」の扱い方には納得がいっているので総評としては悪くないと思っています。ただどうしても展開が急すぎる部分ややたらと最終回っぽい演出が気になってしまったなという印象が強いです。まあこれが最終回だったらそれはそれで全然納得いかないので23話と24話でどうまとめてくるのかを楽しみにしたいと思います。それでは。

 

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TVアニメ「CUE!」21話感想

こんにちは。

最終回も近づいているのでなるべく早めにと思って書いています。前回の記事はこちら↓

 

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21話、多少突っ込みたいところはありましたが結構良い回だったと思います。PVから予想していた通り、大筋は原作通りで割とシリアスめな展開ながらも、所々にコミカルな描写を交えていて重苦しくならなかったのが良かったなと思います。細かい部分はあまり覚えていないのでどこまでが原作通りでどこからそうでなかったかは曖昧ですが、原作の悠希周りのエピソードをうまく再構築してまとめていた印象です。20話もこれぐらい上手く再構築してくれていれば良かったのに…。ただこの4人がちゃんと出てくるのはだいぶ久しぶりなので、ここまでのストーリーをちゃんと覚えていたかどうかによって評価が分かれるような気はしています。

今回は主として悠希のパーソナリティ、そしてchun×4(Bird)のチーム像がメインに描かれていたと思います。原作ファンはともかく、アニメからの方は今回の悠希の様子には驚いたんじゃないでしょうか。ここまでで見せてきた元気いっぱいな言動からは想像できないような曇りっぷりでしたが、3話Bパートで家庭事情を仄めかす発言はしています。

気になった点としては悠希の「このままじゃ声優を続けられないかもしれない」という発言、アプリの方ではもう少し話が進んでから出たものだったような気がするのですが、まさかこんなに早く出るとは思っていませんでした。確かに「仕事が決まれば認めてもらえるかもしれない」というのはアプリの方と一緒なのですが、所属して間もないのにそれは…という気がします。そもそも声優を続けるも何も始めているかどうかさえ微妙な状態で「続けられないかも」と言われましても…感は否めない気がしました。

TVアニメ「CUE!」3話感想 - 雑記帳

そもそも3話でこのような発言をしておきながら、ここまで特に何もなく活動が続けられていた理由は気になるのでその辺りの描写は欲しかったなとは思いますが、仕事がある以上は続けさせて貰えていたと考えるのが自然かなと思います。では何故今になって声優を辞めるだ辞めないだという話になっているかというと、悠希の声優活動に反対していた父親が過労で倒れたということがあります。声優活動を始めるまでは実家の手伝いをしていたところ、レッスンや仕事、さらに寮生活を始めたことによってそれができなくなってしまい、父親が過労になる原因となってしまったと感じているんでしょうね。それならば柚葉の言う通りアルバイトを雇うとかメンバーに手伝ってもらうという選択肢もあるのに何故そうしなかったかといえば、悠希の性格故だと考えられます。悠希は人に頼られることは進んでやる一方、自分から人を頼ることはあまりないんですよね。そして悠希自身、実家の食堂に対して相当なこだわりを持っていることが伺える発言を何かとしています。3話でも「実家のお店がなくなったらそれはそれで嫌だし、でも夢を諦めるのかって言われたらそれはもっと嫌だし」と自身の夢の次に実家の店を大切にしている発言をしている他、4話のいなり寿司、そして今回も納豆の混ぜ方にこだわりを見せていたりと、何かと実家の食堂や父親にまつわる話をしているんですよね。それほどに大切にしている実家の食堂をそう簡単に他人に任せられないというこだわりの強さが今回の破綻を招いたというべきなんだと思います。僕自身もこだわりの強さ故に他人に任せられなかったり人に頼れなかったりという面があるので、悠希のこういうところには共感する部分がありますね…。

そんな悠希を支えたのはやはり仲間の存在でした。この辺りは4話との対比になっている部分が多かった印象で、4話では上手くいかなくて占いに傾倒するあいりに対してあまり干渉しなかったメンバーでしたが、今回は悠希の異変を心配して部屋までやってきたり、「忙しいなら手伝う」という提案をしたりと積極的に悠希を支えようとしている姿が印象的でした。

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そして19話、20話の利恵や美晴とはまた違った悠希のリーダー像も描かれていましたね。悠希はとにかく誰にも負けない勢いがあるのが特徴で、それによって個性豊かなメンバーがまとまっていた部分があります。そんな悠希が勢いを失っているのを見て一番に心配するのはその勢いに救われたあいりでした。4話で悠希に支えてもらったあいりが今回は悠希を支える側に回る展開は王道といえばそうですが関係性のオタクとしても嬉しかったです。あいりだけでなく柚葉と千紗も、それぞれにアプローチは違えど悠希を心配している様子がしっかりと描かれていて、これまでに積み上げてきた関係値を感じました。

今回のエピソードでは特に「仲間」というテーマが強調されていた印象があります。今回の悠希のセリフにも「チームでいられるのは今だけじゃん。結局は一人一人なんだし」というものがありましたが、声優という職業において「仲間」というのがどういう存在なのかを端的に表していたと思います。何度か言及していますが、声優という職業は基本的に一人一人が別の役をもらってそれぞれに違う活動をしていくものです。そんな中でも同じ作品を一緒に作り上げて行く機会はあって、その時は確かに仲間である一方、別の作品のオーディションを受ければライバルであったり、はたまた全く無関係の仕事をそれぞれしたりということもあるでしょう。そんな声優という仕事をしていく上でも、chun×4として活動している今この瞬間は仲間であるし、もしもその活動が終わったとしても大切な友達であることには変わりがないということが「声優とか仕事とかじゃなくて、離れたくないって思って、だから私はみんなと一緒にいたいです」という悠希のセリフに込められていたように思います。僕は結構声優ラジオを聴いたりするのですが、実際に活動している声優さんにおいても共演をきっかけに仲良くなり、共演した作品が終わっても長い間プライベートでの交流があるというエピソードを聞くことは多いですし、特に新人の頃に共演した作品においてその傾向が強いように感じます。そういう意味でも、仕事仲間としてだけでなくかけがえのない友達としてお互いのことを思う様子はある意味でリアルで、そしてCUE!という作品において重要な描写であると思います。なにせこの作品のテーマソングは「Forever Friends」というタイトルですし、歌詞にも「一人じゃ生きてゆけない僕らは」とか「たとえ遠く離れる日が来ても 築いた絆はそう消えたりしない」というフレーズがあったりと、基本的には一人一人違う仕事をする声優という職業における仲間の大切さを重点に置いているんですよね。寮での共同生活という(多少無理のある)設定もそれを強調する役割があると思いますし、今回のエピソードも寮で共同生活をしていなければ成り立たなかったと思います。

それから悠希と父親の関係についてですが、当初彼女の声優活動に反対していた父親が、真咲社長から悠希の活動について聞かされたことによって声優活動を認めたという描写がありました。悠希は自身の活動についてほとんど父親に話していなかったようですが、その理由として彼女がやや完璧主義、結果主義であることが読み取れます。彼女は「何かをなし得た時」に報告するつもりだったと言っていますが、あれだけライブをはじめとした活動をしていても「何かをなし得た」と思っていないというのが面白いところです。では何をしたらそう思えるのかと考えると、彼女が声優を目指した理由であるロボットアニメに出演することなのかなと思います。3話では父親について「頑固だから〜」と言っていた悠希ですが、こういった様子を踏まえるとお互い様といった感じですよね。変な意地を張らずに最初から父親にちゃんと話していれば今回のような展開にはならなかったのではないかと思うと悠希自身の責任になる部分が多いのですが、そのあたりはやはり15歳という一般的には反抗期にあたる年齢の彼女の歳相応な部分なのかなと感じます。結局は声優活動を父親に正式に認められた悠希ですが、ここで少し気になるのはそれによって父親の過労は解消するのかというところです。直接描写がなかったので完全に憶測ですが、悠希が戻ってくる前提でいたところを、声優活動を正式に認めることによって悠希がいなくても店を回せるように人員を増やすなどの対応をしたのかなと考えています。このあたりはもう少し描写があってもいいのかなとは思いましたね。

それから真咲社長の存在も大きかったですよね。2クール目に入ってからさらに存在感を増している気がしますが、基本的にはそれぞれの自主性に任せつつも指針はしっかり示していますし、迷った時には的確なアドバイスをする姿を見せていました。さらに今回はメンバー間の話にはあまり介入せずに悠希の父親と大人同士の話し合いをして解決に導く姿が描かれていて、基本的には裏方役ながらも声優のタマゴ達にとって頼れる社長であり、そして声優としての先輩であることを表していたのかなと思います。

少し気になる点はありましたがなんだかんだで今回はいい回だったなと思います。原作をベースにしつつアニメオリジナル要素を織り交ぜてうまくまとまっていた印象ですね。先程も書いた通り悠希の家庭事情についてもう少し細かい描写があればさらに良かったと思いますが、尺の都合など考えると難しい部分もあると思いますし、あえて描かないことで想像に任せるという面もあったのかなとも思います。それにしてもこの記事を書くにあたって観直していた3話や4話からだいぶ演技が良くなっていた印象があります。ゲームとは違うアニメのアフレコに慣れてきたんでしょうけど、こうやってキャラクターだけでなくキャストの成長も感じられるのもCUE!の魅力ですよね。そして次回のサブタイトルが「Forever Friends」、さらに背景画像はライブ会場ということで結構驚いています。誰もが最終回に持ってくると思っていたライブを22話というタイミングで入れてくることにどういう意図があるのかとても気になっていますが、来週までのお楽しみということで放送を待ちたいと思います。それでは。

 

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